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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)1855号 判決 1966年12月21日

主文

被告は原告に対し別紙目録記載の土地につき昭和三七年四月三日完成した取得時効を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

1、原告

主文同旨の判決

2、被告

本案前に「本訴を却下する。」、本案につき「原告の請求を棄却する。」、「訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二、当事者双方の主張

1、原告

(請求原因)

一、原告は、別紙目録記載の土地(以下本件土地という。)を、昭和二七年四月三日から昭和三七年四月三日までの一〇年間、所有の意思をもつて、平穏公然に占有を継続し、かつ右占有のはじめ善意無過失であつたから、取得時効によりその所有権を取得した。

二、すなわち、原告は、昭和二七年四月三日本件土地をその所有者であつた訴外桑田光一より買受けたが、同時に同月一日本件土地上の別紙目録記載の建物二棟(以下本件建物という。)をその所有者であつた訴外造田道顕より買受けており、右土地及び建物を一括した代金九〇万円を当時右両訴外人に支払つたうえ、本件建物については即時引渡を受け、本件土地の占有を開始したものである。

三、ところが、被告は本件土地につき昭和三六年二月二日大阪法務局江戸堀出張所受付第二、四〇二号をもつて桑田との間の昭和三五年二月一日付売買を原因とする所有権移転登記手続を経由し、現在本件土地の登記簿上の所有名義人である。

四、よつて原告は被告に対し本件土地につき主文一項記載のとおりの所有権移転登記手続を求める。

(本案前の抗弁に対する反論)

被告の主張する訴と本訴とはその請求の趣旨及び基礎を全く異にし、法律上別個の訴訟であるから、被告の主張は理由がない。

(本案の主張に対する反論)

一、被告がその主張するように本件土地につき所有権移転登記手続を経由していても、右はいわゆる時効の中断事由に当らないから、被告の主張三項は理由がない。

二、およそ時効によつて不動産の所有権を取得した者は、当該不動産につき登記を経ずして時効完成当時の所有者に対抗しうるものというべきであるから、被告の主張四項も理由がない。

2、被告

(本案前の抗弁)

原告は本訴提起前の昭和四〇年三月三〇日被告が原告を相手方として提起した広島地方裁判所福山支部同年(ワ)第二四号建物収去土地明渡請求事件において敗訴の判決を受けたので、これを不服として広島高等裁判所に控訴し、目下同裁判所同年(ネ)第八三号事件として審理中である。本訴は右事件と同一事件である。すなわち、右訴において被告は本件土地の所有権に基く妨害排除請求権をもつて訴訟物となしており、所有権の存否にこそ審判の対象が向けられるものであるところ、本訴において原告の主張するところは同じく本件土地の所有権に基く物上(登記)請求権であり、両者は全く同一事件である。そうすると本訴は明らかに民事訴訟法二三一条にいわゆる二重起訴の禁止の規定に抵触して不適法であるから、これが却下を求める。

(請求原因に対する答弁ならびに主張)

一、請求原因一項のうち、原告が、被告において後記のとおり本件土地を買い受けた頃からこれを占有していることは認めるか、その余の事実を否認する。二項のうち、訴外桑田光一がもと本件土地を所有していたことは認めるが、その余の事実は不知。三項は認める。

二、被告は昭和三五年二月一日本件土地を桑田より買受けてその所有権を取得し、原告の主張するとおりその旨の登記を了した。そこで被告は原告に対し、同年五月一九日付、同年六月一日付、昭和三六年二月九日付、昭和三七年二月一九日付、昭和三八年一〇月二四日付各書面をもつて、それぞれ本件土地を買受けた旨の通知、地代相当額の損害金支払の催告、地上建物の収去本件土地の明渡の催告をし、さらに原告を相手方として昭和四〇年二月広島地方裁判所福山支部に建物収去土地明渡請求訴訟を提起し、同年三月三〇日被告勝訴の判決を受けている。以上の事実により、原告はその主張する期間本件土地を善意無過失平穏公然に占有したものとはいえない。

三、被告は原告の主張する取得時効の完成する前に、前項に述べたとおり、本件土地を買受け、その旨の登記が了しているのであるから、原告は被告に対し一〇年の時効を主張しえない。

四、仮りに原告が一〇年の時効により本件土地の所有権を取得したとしても、本件土地につき所有権移転登記手続を了していないから、被告に対抗しえない。

第三、証拠(省略)

理由

一、先ず、被告の本訴は二重起訴の禁止の規定に抵触するから不適法である旨の本案前の抗弁について判断する。本件記録によれば、被告が本訴の提起前に原告を相手方として提起した広島地方裁判所福山支部昭和四〇年(フ)第二四号建物収去土地明渡請求事件において、同年三月三〇日原告敗訴の判決が言渡され、右事件は現在広島高等裁判所同年(ネ)第八三号事件として同裁判所に係属中であることが認められるけれども、右事件は本件土地の所有権に基づく妨害排除請求権を訴訟物とするのに反し、本訴は同じく本件土地の所有権に基づくものとはいつても、登記請求権を訴訟物としていることが明らかで、右各訴訟はその訴訟物を異にし、これを同一事件であるとはいえないから、被告の右本案前の抗弁は理由がない。

二、そこで進んで原告が一〇年の取得時効により本件土地の所有権を取得したか否かについて判断する。本件土地がもと訴外桑田光一の所有であつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証、官公署作成部分の成立につき当事者間に争いがなく、その余の部分は証人造田道顕の証言によつて成立を認めることができる甲第三号証、証人山本清司、同造田道顕、同桑田光一の各証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和二七年四月一日訴外造田道顕から大阪市福島区海老江中二丁目六一番地宅地四五八、五七平方メートル(一三八坪七合二勺)のうち、本件土地上にある本件建物を買受けてその所有権を取得し、次いで同月三日桑田から右六一番地のうち本件土地を買受け、同時にその占有を取得したが、右六一番地は当時分筆手続未了であつたので、桑田との間で、所有権移転登記手続は分筆手続完了後請求次第直ちになす旨の約定をしていたが、桑田において右約定を履行しないまま現在に至つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右によれば、原告は昭和二七年四月三日所有権が自己に属すると信じ且斯く信ずるについて過失なく本件土地の占有を取得したものというべきである。

そして原告がその後一〇年を経過した昭和三七年四月三日当時も本件土地を占有していたことは当事者間に争いがないから、右の期間中占有が継続していたと推定される。

被告はその主張の日、本件土地を桑田から買受けたので、原告に対し、その主張の各日に本件土地を買受けた旨の通知、地代相当額の損害金の催告、地上建物の収去本件土地明渡の催告をし、さらにその主張の日その主張のような訴を提起し被告勝訴の判決を受けていることをもつて原告の右占有が善意無過失平穏公然の占有といえない旨主張するが、善意無過失の要件は占有の始めに存するを要し且これを以て足るから、その後の事由を以て右要件の存在を否定出来ないのであり、又右事由のうち、昭和三八年一〇月二四日付催告及び右訴の提起は何れも時効期間経過後の事柄でありその余の事由も原告の占有の平穏公然性を否定するものではないから被告の右主張は採用出来ない。

三、本件土地につき被告が昭和三六年二月二日原告主張のとおり所有権移転登記手続を経由し、現在その登記名義人であることは当事者間に争いがない。

ところで被告は右登記を了したことにより原告は被告に対し本件土地の取得時効を主張しえない旨主張するけれども、右登記を了した事実は法定の中断事由に当らないことは明らかであるし、右のような登記上の手続をもつて時効の中断事由と認める実定法上の根拠もないから、右主張は採用しえない。

そうすると原告は本件土地を昭和二七年四月三日から昭和三七年四月三日までの一〇年間所有の意思をもつて平穏公然善意無過失に占有し、その所有権を取得したものというべきであろう。

被告は原告が時効により本件土地の所有権を取得したとしても、登記を了していないから被告に対抗しえないと主張するけれども、被告は右時効完成当時の本件土地の所有者であつたことは被告の主張自体から明らかであり、而して時効取得者は、時効完成当時の所有者に対しては登記がなくともこれを主張することができるものというべきであるから、被告の右主張も理由がない。

四、そうすると、被告は原告に対し本件土地につき昭和三七年四月三日完成した取得時効を原因とする所有権移転登記手続をなす義務があり、これを求める原因の本訴請求は理由があるから、これを正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

目録

大阪府福島区海老江中二丁目六一番地の一

一、宅地 三三〇・五七平方メートル(一〇〇坪)

右土地に対する仮換地

大阪特別都市計画復興土地区画整理事業海老江工区一〇ブロツク七符号

二一四、六七平方メートル(六四坪九合四勺)

右土地上

家屋番号同町第一〇〇番

一、木造スレート葺中二階建アパート一棟

建坪及び中二階坪各七七・六八平方メートル(二三坪五合)

家屋番号同町第一〇一番

一、木造木皮葺平家建劇場一棟

建坪 一六八、八九平方メートル(五一坪九勺)

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